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能力者の放課後能力者の放課後
どうやら杜子春様のブログらしい。三日坊主だけどな!
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急ぎ焦る中で足を止めさせるもの、それが・・・
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途方にくれた俺はあの後何もする気も起きず、違法を承知でバイクを乗り回して街中をぶらついていた。
誰かにケンカを売って歩く気もしやしねえ。
24時間営業のファミレスでメシを食ってそれから・・・それから、することも無い。

ヒマだからとマサ兄の家に足を向けかけて、やめた。
奴はいないことになっている。新聞にすら載りゃしねえ、失踪者扱い。
どこへ行ったってんだ。地獄か天国か・・・誰も教えちゃくれない。誰も知りもしない。

考え事をしながら、俺の住む狭い世界をぐるぐる回っていた。
ガソリンが尽きるにはまだまだ遠いし、まだ夜の明ける気配も殆ど無い。

―久々に走りますかね。

そう思い立つと俺は緩やかに国道を反れて県道へ。
手首と足の動作だけで全てが掌握できる瞬間。この思いすらもあっという間に置き去りにしてくれ。

それにしたって、いくら速度を上げても捨て去れない何かが蛇のようにどこかに絡み付いているのが気になって仕方が無い。

いや、そんなこと知ったことか。
そう毒づいてスロットルをまわし、人気の無い一帯を走る。
取り締まりが居ない場所くらい、知ってる。

採石場。

もし地縛霊だとかが居たら蹴散らしてやるさ。いや、殺されたっていいかもしれない。似合いの死に様だ。
そして俺もなかったことになったらいい。

そんなことを考えていると、ぽつりとヘルメットのバイザーに水滴が落ちた。いいさ、そのままずぶ濡れになる覚悟くらいできてる。
雨の降りはじめの強烈な土の匂いが俺を駆り立てる。そうだ、もっとだ。何もないのに面白くてたまらない。

最寄の橋に差し掛かる前には本降りになっていた。明滅する街灯に反射する雨の粒子が銀色に光っている。

―よくよく雨に縁があるもんだわな
ぽつりとそう思った。

その懐かしい場所で、「よう」と手を掲げる男を幻視した。
そうだ、あの男を俺は知ってる。
ぎょっとした俺は咄嗟に前輪だけにブレーキをかけ・・・無様につんのめるようにスリップして転倒した。

「ってて・・・」

ああ、馬鹿だよ。居もしない男に転ばされる男は。
自嘲しながらバイクを起こす俺に声がかかる。
雨音に混じって鎖を引きずるような音がする。

「おいおい、大丈夫かよ・・・」

見上げた視線の先に居たのは、バス停を手にした男だ。
なんてこった。

「アンタ、何やってんだよこんなとこで。」

「さあ」

知ったこっちゃない、といった調子でバス停が振りかぶられる。
ついさっき起こしたドラッグスターのハンドルがその一撃であっさり曲がる。

「・・・ざけんな!」

ハンドル交換に幾らかかると思ってやがる。
そんな場違いな思考が俺の怒りに火をつける。

俺の知った男と違って動きは精彩を欠いている。ただ、破壊力だけはゴーストに向けていたものと遜色ない。
そして奴は、殺る気だ。

俺が死ぬ前に俺が当て続ければ勝ち。二回も食らえば俺が倒れる。
まったくもってイヤになるほど不利な勝負だ。くそったれめ。

俺が甘んじてやられる気もなくチェーンソー剣を振り回しているように、奴の姿の地縛霊は待ってくれるわけもなく地面を耕している。

とはいえ奴はただ耕したくて耕してるわけじゃない。俺を狙い続けているのに上手く当たらないだけだ。
なぜって?俺がちったあ強くなっていたからさ。
とはいえ、体調は最悪だ。
酒と煙草と油モノの組み合わせは最強に体に悪い・・・。

そんな無駄なことを考えていればヘルメットが割れ、頭に強烈な衝撃が入る。
さしたダメージってわけじゃない。防ぎはしたが、次も守ってくれるほどヘルメットは強かないだろう。頼れねえ奴だ。
カタカタと何かが遠くから鳴る音がする。

ふっ、と腹に力を込めて突き出した剣の切っ先が、奴の脇腹を抉る。
血しぶきだかなんだか分からないものが飛んだ。
馬鹿馬鹿しい、内臓もロクにのこっちゃいないない死に様のくせに何が飛ぶってんだ。

返す一撃。
バス停の看板によってジャケットごと左腕の肉が抉られた。馬鹿みたく派手に血が飛ぶ。
腕からはぶらぶらと殺がれた肉つきの皮とジャケットがぶら下がっているが、じんわり痺れてむず痒いだけで何の痛みも無い。
痛すぎて脳味噌が痛覚をケシ飛ばしてやがる。こんな状態が長持ちするもんか。

自棄気味に繰り出す刃でがらんどうだった筈の奴の腹をえぐる。派手に何かをブチまくが、まだだ、まだ倒れない。
次の一撃を避けるために体の軸をずらせば、指先に避けたはずのバス停が掠って手袋ごと指の皮膚が殺げる。さだまらねえ。

それでも雨で冷える体を鞭打って次につなげる。
ぜい、と喉が鳴り、同時に刀身が炎を纏って奴に食らいついた。
その一撃で、奴は雨の中だというのにあっというまに人間松明と化す。

それから何回かバス停を避け、それでもダメージを与えられないまま途方にくれている俺に、漸く謎のカタカタの正体が分かった。歯の根が噛み合ってねえんだ。俺は怖くて仕方が無い。

―死にたかない

そう思って加えた一撃が、人間松明を冗談みたいに吹き飛ばした。

「・・・おい、トシ」

人間松明が転がったまま口を利いた。
炎越しの顔が笑ってやがる。

「負けたよ。ラーメンは奢れそうに無いがね。」

腰から下がその雨で溶け出している。
その目はもうどこも見ていない。

「他にいうことはないのかよ。」

思わず失笑して・・・その頭を踏み潰した。
それっきりだ。本当にそれでお仕舞いだ。

俺と最後に一度でも戦いたい一心でこんなところに湧いたってんなら、大概にしやがれってんだ。
お呼びじゃねえんだよ。馬鹿野郎。
ただ、奴は死んだ上にゴーストになったくせにあまりにも相変わらずで・・・俺は少し安心した。もう俺が気に病むこともないのかもしれない。もうこの世にとどまっている可能性すらないのだが。

漸く脳味噌が痛みを認識しだしたのか、じりじりと腕が痛みだす。
マサ兄もマサ兄をブチ殺した奴も間違いなく死にくさったが、ああそうだ俺は間違いなく生きてる。
死ぬのはもう少し後回しにしてもいい気分だ。本当のところ、今俺は少し幸せなのかもしれない。

今や完全に消え失せた男のそばに転がっていたのは「降車専用」とかかれたバス停。
奴のトレードマークで、俺は思えばこいつに人生の途中下車をさせられつづけていたのかもしれない。
とはいえ、生き急ぐこともない。せいぜいこのバス停に誰かを止めてやろう。
誰が止まるかだとかは、知ったこっちゃ無い。

俺はそのバス停を担いで、ボロボロの体を引きずって無理やりバイクに乗り・・・人生で初めて補導された。畜生め。
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